新型コロナウイルスの感染拡大により世の中が大きく変化する中、自身の今後の身の振り方について悩むサラリーマンの方も多いのではないでしょうか。
20代、30代ならまだまだこれから成長して会社で活躍する余地もあります。
しかし40代になるとある程度状況がわかり、定年までの年数を数えたりしますよね。
さらにコロナ禍で影響を受けた業界では、転職や脱サラを思い浮かべる人もいると思います。
ここで紹介するのは、「もしサラリーマンが独立したらどうなるのか?」という疑問を「副業」という形で体験した一人のサラリーマンの話です。
きっかけ
40歳を目の前にして仕事もある程度惰性で回しても失敗しないようになり、なんとなくマンネリ化を感じていた頃、ふらりと立ち寄った書店で「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」と言う本を見つけました。
著者曰く「起業するよりリスクが低く、企業で雇われるより思いっきり自分流の経営ができる。」ということで、私は大いに共感しました。
それまでも資産形成には少なからず関心があり、国内の株式は10年以上やっていました。
ただ元金が300万円程度とそこまで大きくはないため目立った成果はありません。
また、こちらも書店でよく目にする「サラリーマン大家さん」にもあこがれつつ、でもさすがに不動産投資に手を出すほど資金もなく、、、、、、
というモヤモヤした日々の中で、「個人買収」という単語に強烈に惹かれ、既存のビジネスを買うのであればリスクは少ないのではないかと、楽観的に考えたのが始まりでした。
この物語はそんなことを考えた意識前向き系、でもあくまで普通のサラリーマンの胃が痛くなるような個人買収の顛末です。
ちなみにあくまで普通のサラリーマンの資産運用目線ですので、各項目について専門的な裏付けはない点はご容赦ください。
知識ゼロからのスタート
まずは株の運用資金の一部を引き上げて、さらに余裕資金150万円を足して300万円を自己資金とし、副業なのでリスクの伴う借入金はしない、という前提で準備を始めました。
そしてそのころから目につくようになっていた個人M&Aサイトに早速登録し、いい案件がないかと物色を始めました。
この時には1年後に逆の立場(売り手)としてまたこのサイトを利用することになるとは知る由もなく、そして人が売りたいものには何か理由がある、ということも現実的に理解できていなかったわけです。
今思えばこの時すでに舞い上がっていましたね。
世の中ではちょうどそのころから個人買収という概念も急速に広まり、サイトには結構な数の案件がありました。
その中からもともと関心のあるジャンルであった子どもの教育分野に焦点を絞り、その中でも個人経営の学習塾にあたりを付けました。
数日後には早速目星の案件を見つけ、そこからおそるおそる交渉開始です。
売買交渉はまずは匿名で手探りのような会話から始まります。
この時点ではいったいどのような相手なのか、何か落とし穴はないか、、、
と不安になりながらのまさに暗闇の中を恐る恐る進むような気持ちです。
交渉
ビジネス書だけで得た拙い会計知識をフル稼働して経理書類をチェックし、デューデリジェンスなる言葉も覚え過去の経営状況を確認していきます。
そしてある程度サイト上で会話を重ねた段階で、お互いの合意のもとに双方が素性を明かして現実的な交渉に入ります。
このあたりで大きな案件の場合は専門家が入り厳しいチェックもするはずです。
ただそこはいかんせんただのサラリーマン、しかも買収先の素性を知りホームページなどにも目を通すと気持ちだけが先行し、チェックが甘くなります。
さらにメールで会話を重ね、お互いに大きなネガティブポイントがなければいよいよ対面しての交渉となります。
その段階で実際の教室も訪れるわけですが、時間によっては通っている子供なども目にすることがあり、あこがれの塾オーナーが現実的なものとして見えてきます。
このあたりでは完全に前のめりになっています。
今振り返ると立ち止まるポイントはいくつかありました。
表面上は慎重に交渉しているように振舞いますが、実際は購入することを決めていたような気がします。
私の場合、決して騙されていたとか相手に悪意があったというような要素はありませんでした。
ただ、やはり今冷静に振り返れば、副業(オーナー業)としての塾経営は利益を出しにくい、という当たり前の事実をもう少し現実的な課題として認識できていたはずです。
この当時は、妻や知人の手を借りればどうにか運営できるだろうと楽観的に考えていました。
この段階で買収後毎月の収支のワーストケースについても検証を行っていれば、少なくとも赤字経営を前提とした資金計画も事前に立てることはできたはずです。
先ほど、決して騙された要素はない、と言いましたが、実際売り主さんには決して虚偽や隠ぺいはありませんでした。
ただ、売買に不利になりそうな話で説明義務に当たらない内容は決して口に出していなかったこともまた事実です。
例えば自分を慕って通っている子供が数名いて、自分が引退した場合はその子たちもやめる可能性が高い、といったようなことです。
(全員ではありませんが実際その中の数名は辞めていきました)
誤算
そしてこのあたりまで来ると、いよいよスタッフとも顔合わせを行い、大きな反発がないことを確認し気持ちは一層高まります。
そしてスタッフも交え新たな方針や引継ぎ時期など現実的な話を行い、さらに入居しているビルのオーナーに一緒に挨拶に行く段取りをします。
そして私の場合、経営本体と同じくらい、いや精神的にはそれ以上の負担を強いられることになる入居ビルのオーナーともここで初めて対面しました。
この方たちもまったくもって悪い方ではないのですが、後で言われたところによると、本来はまず最初に入居ビルの管理会社に挨拶に行く必要があったようです。
この点は前のオーナーもそういった手順は意識しておらず、家賃交渉や諸条件交渉の際に若干ネガティブな要素となってしまいました。
と同時にのちに最大のネックとなった契約条項、特に退去する場合は6か月前に告知する必要がある、それ以前に解約する場合は違約金が発生する、という解約条項についても初めて知ることになりました。
もちろん家賃は事前に確認しており、収支計画に織り込んでいたものの、賃貸契約に伴う圧倒的に貸主に有利な契約内容に驚かされることになります。
勉強不足としか言えませんが、それまで個人の住居としての入居経験しかなかったため、6か月もの事前通知義務があるとは思いもしなかったのです。
ここで余談なのですが、それにしても日本は不動産を借りる際貸借人の立場が弱すぎると思いませんか?
よく一度入居したら貸借人の権利保護のためなかなか追い出すことはできないのでオーナーに不利、
などと言われますが、そういうのはレアケースではないでしょうか。
一般的には高い礼金に加え、鍵交換費だの清掃代だの実態の見えにくい費用をこれでもかと請求してきますよね。
あらゆる業界で市場が変化する中、不動産業界が一向に変わらないのが不思議です。
いろんな背景があるんでしょうね。
この退去条件は、つまり仮に塾を閉めるとなった場合、そこから6か月先まで家賃を払う必要があるということです。
数か月は調整できるとしても、撤退ラインとして設定していた収支上の前提がいきなり大きく崩れ去りました。
この段階で中止することも考えましたが、既に同時進行で開業届、青色申告の提出、会計ソフトの契約やらパンフレット作製などにも徐々に着手しています。
さらに従業員とも計画を立て始めていますので、進むしかない、というか進みたい、みたいな気持ちしかなくなっていました。
開業
ちなみにその個人事業主としての開業届と青色申告の手続きですが、ここもそれなりの書類作業を覚悟していたのですが、これは拍子抜けするほどあっさりと完了します。
書類ができていれば管轄の税務署の窓口に行き提出するだけです。
なんとなく審査とか事業計画の説明とかが必要かと思いましたがそんなものは全くありません。
行政としてはそんなことよりどんどん開業して稼いでもらって、その分しっかり納税してくれることが望ましいということなんでしょうね。
いずれにしろ後で紹介するFreeeという会計ソフトのおかげででややこしいと思っていた開業届書類もあっという間に準備ができます。
ただし、私の場合は従業員もいる事業を引き継ぐため、その従業員の雇用に関して保険関係の書類をハローワークへ届け出でることが必要となっており、このあたりは制度が難しく、結局都合2~3回ほど通うことになりました。
これまでの自分一人で完結していた副業とは全く対応範囲が異なります。
最終的には窓口係員の指示通りに書類をそろえて提出しただけなので、正直なところ今でも仕組みと手配の内容はよくわかっていません。
この種の知識は勉強できるかもしれませんが実際には実務で数年携わらないと覚えられないので、専門家のサポートがあると心強いと思います。
もし個人事業主としてゼロから事業を始める場合はこの書類は不要ですが、売り上げもゼロからとなりそのリスクのほうが大きいでしょう。
何はともあれこれでいよいよオフィシャルに一国一城の主となる準備が整ったわけです。
さて、不動産については予期せぬ誤算もありましたが、そこは意気込みのみで乗り越え、いよいよ正式に契約書を締結します。
小規模事業の譲渡契約書のひな型に倣い正式な契約書を2部作成し、一応調印式として時間を決め、双方2部ずつ署名捺印を行います。
前オーナーはさすが立派な実印をお持ちでしたが、私は急遽準備した普通の個人印で臨みます。
思えば書店で購入した1冊の本に触発されここまで来ましたが、その間たったの2か月です。
この行動力だけは褒めてあげていいのか。
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